『絶対に呼べない』

 教会の鐘が鳴っている。今日は快晴だが風が強い。花びらを手にした招待客が髪や服装を気にしつつ、主役を待ち構えていた。
 再び鐘の音が響き、扉が開く。新郎新婦の登場だ。宙に色とりどりの花びらが舞った。満面に倖せの笑みを浮かべている花嫁は妹。本来なら皆と一緒に祝福すべき私は、見物客に紛れて遠巻きに眺めている。
 祝福などできない。必死に反対したが、「好きになってしまったのだから仕方ない」と、全く聞く耳を持たなかった。どいつもこいつもふざけている。死んだ母に申し訳ないとは思わないのだろうか。
 舞い散る花びらのトンネルを抜けると、新郎新婦は回れ右をした。すかさず若い女性達が妹の背後に回り、笑顔で陣取り合戦を始めた。ブーケが欲しいのだ。
 花嫁は思いっきり反動をつけて、ブーケを後ろへ放り投げた。その瞬間、突風が吹いた。
 流された小さな花束は、植込を越えて私の手の中に落ちてきた。同時に人垣が割れ、全員の目が私に注がれる。妹がドレスの裾を振り乱しながら駆け寄ってきた。
「やっぱり来てくれたのね」
 一番美しい筈の花嫁が誰よりも顔を崩して号泣し始めた。その姿に胸が詰まる。愛しさがこみあげてきた。思わず肩を抱き締める。
「あんたはどんなことがあっても、私の妹よ。倖せになってね」
 花婿も近づいてきた。私たち姉妹は中学生の頃から、彼の髪が白くなるのも顔に皺が増えていく様も眺めてきた。その男を睨みながら妹に向かって、こう続けた。
「絶対に『おかあさん』とは呼べないけど」
 もはや絶対に『おとうさん』と呼べなくなった男を睨みながら。






 



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