『ウソ咲キザクラ』

 この時期はどこの会社も忙しい。私も連日、残業と休日出勤続き。とにかく早く帰って寝たい。他のことに割ける時間なんて無い。私は今日も自転車で、川べりの並木道を家に向かって爆走していた。ただ眠るためだけに。
 着メロが聞こえ、ブレーキをかけた。ケータイの画面には、東京に嫁いだ友人の名前。どうしたのかな? いつもはメールなのに。
「昼にもらったメールのことやけど」
 彼女はそう切り出した。昼休み、確かに「こっち、サクラ満開」とメールを送った。
「一昨年は『サクラサク、小説の挿絵決定』。去年は『サクラサク、漫画家デビュー』。で、今年は? どんなサクラが咲いたん?」
 道路の端に寄り、街路樹にもたれて答える。
「いや、だから、サクラの花が満開ねんて」
 すると、すぐに大きな溜息が聞こえた。
「東京だってろくに咲いてないがに、金沢が満開なわけないがいね。今年のウソはダメやね。夢もロマンも面白味も何も無いわ」
 ダメ出しする後ろで赤ちゃんが泣きだし、彼女は電話を切った。「未来の漫画家の来年のウソに期待する」と付け加えて。
 沈黙したケータイは、現在の日時を表示した。四月一日午後二十二時三十五分、と。
 ケータイをバッグに放り込み、宙を仰いだ。
「忘れとったな、エイプリルフール……」
 見えるのは、月明かりの下でほのかに輝く、いつもよりも少し咲き急いだサクラの花々。
「……久しぶりにネーム切ってみようかな」
 忙しいと泣き言ばかり言っていないで、五分でもいいから毎日夢のための時間を作ろう。そして来年は、とっておきのウソを――いや、今までのウソをマコトにして、彼女をひっくり返らせてやろう。
 そう決心して、私は再び川べりの並木道を、家に向かって爆走し始めたのだった。






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